工場が行うべき環境対策は? 取り組み事例やポイントなどを解説!
「工場が行うべき環境対策は?」「どうすれば環境を守りながら工場が運営できるのか」など、工場が抱える環境への問題点で悩んでいる方は多いでしょう。昔から工場は環境対策の取り組みや問題点とぶつかってきました。環境問題への取り組みは長期的な視野を見据えて考えていかなければなりません。
本記事では、工場が行うべき環境対策などについて解説します。
- 工場が抱える環境への問題点
- 工場が行うべき環境対策は?
- 工場の環境対策と取り組み事例
- 工場の環境対策に関してよくある質問
この記事を読むことで、工場が抱える環境への問題点や実際の取り組み事例などが分かります。気になっている方はぜひ参考にしてください。
1.工場が抱える環境への問題点
最初に、工場が抱える環境への問題点について解説しましょう。
1-1.水質汚染問題
工場からの排水によって起こる問題が水質汚染問題です。日本においては、メチル水銀化合物を含んだ工場排水が水俣湾に排水された結果、多くの人が水俣病を発した事件が有名となっています。最近では、中国の河川が工場排水によってパステルカラーに染まったり、大量の藻(も)が発生したりするなどのニュースもありました。まさに、水質汚染問題は、昔から工場が抱える環境への問題点といっても過言ではありません。最近は工場での対策が進み、水質汚染の主な原因は家庭からの生活排水がほとんどですが、工場からの排水も問題点がまだたくさん残っています。
1-2.大気汚染問題
水質汚染問題と並び、大気汚染問題も工場が抱えている問題点の1つです。水質汚染問題で有名なのが水俣病であるなら、大気汚染問題で有名なのは四日市ぜんそくとなります。四日市ぜんそくは、工場の煙に含まれていた亜硫酸ガスが原因で四日市に住んでいた多くの人がぜんそくを発症した事件です。日本国内では1960年代から1980年代の高度経済成長期にかけて、工場から大量の二酸化硫黄といった有害物質が排出されました。現在では、塗料やインク溶剤に含まれるVOCによる光化学スモッグが問題になっています。中国では、数m先も見渡せないほど視界が悪くなる大気汚染が問題視されており、風に乗って有害物質が飛んでくる日本も影響を受けているほどです。
1-3.アスベストに関する問題
水質汚染や大気汚染のほかに、近年大きな問題になっているのがアスベストに関する問題です。アスベストとは、天然に採取される鉱物の一種で、軽い綿状の性質を持っています。加工しやすく耐火性・断熱性・電気絶縁性に優れていることから、一時期は多くの断熱材・保温材・防音材として建築物に使用されていました。けれども、アスベストは発がん性物質だということが判明し、今ではアスベストを含む製品の製造が禁止になっています。しかし、当時建築された建物がちょうど寿命を迎えることにあたり、アスベストを含む屋根材の撤去や廃棄が問題視されているのです。工場においても、アスベスト問題は深刻な問題となっています。
1-4.水不足や環境保全問題
工場が抱える問題点は、水不足や環境保全問題も重要な要素となっています。2050年には深刻な水不足に陥り、全人口のおよそ40%は水不足に困る状況になるだろうといわれているのです。そのため、工場も将来の水不足に備えて、対策を立てていかなければなりません。特に、車の製造・塗装工程には水は必要不可欠な材料となります。また、工場で使用される原料には木材を多く使用しているものです。大気汚染問題を解決してくれるのは緑、森林が大きな役割を発揮します。そのため、森林を減らさずに材料を調達するにはどうすればいいのか考えることも、工場が抱える問題点の1つなのです。
2.工場が行うべき環境対策は?
それでは、工場が行うべき環境対策について解説します。
2-1.生産活動における二酸化炭素の削減
大気汚染問題を解決する大きなポイントになるのが、二酸化炭素の排出量削減です。何かものを生み出す際には、必ず二酸化炭素が発生してしまいます。二酸化炭素は環境汚染を引き起こす1番の原因になっているため、ほとんどの工場は二酸化炭素の排出量削減に取り組んでいる状態です。できるだけ二酸化炭素を排出しない生産にしたり、エネルギーの使用状況に工夫を施したりするなど、対策の削減効果を見える形にすることが大きなポイントとなります。エネルギー使用状況を見える形にすることで分析しやすくなり、より二酸化炭素削減のための取り組みができるようになるのです。
2-2.化学汚染の防止
二酸化炭素の排出量削減と同じく、化学汚染の防止も工場が取り組むべき環境対策といえるでしょう。大気汚染・水質汚濁・土壌汚染など、公害発生抑制につながる環境対策や取り組みが各工場で行われています。特に、環境や人に害をおよぼす恐れのある物質を扱っている工場は、取り組みを徹底していかなければなりません。多岐にわたる化学物質を適切に管理するためのシステムや、製造の各工程における化学物質の発生量・移動量をしっかりと把握することが大切です。化学物質を生み出さないようにするため、リサイクル循環の取り組みに力を入れている工場も増えています。
2-3.万が一のときのための事故への備え
万が一、工場で扱っている化学物質が流出したり、環境汚染につながってしまったりした場合、すぐに対処できるようにするのも大切な環境対策の1つです。自分たちがいる工場でどのような環境事故が発生するのか、予想を立てて、その対策を考えていかなければなりません。そして、緊急事態対応マニュアルを形でまとめ、定期的に対応訓練を実施することが大切です。事前に訓練を行っておけば、いざというときでも迅速な対応が可能となります。工場では有毒な物質を扱うこともあるため、工場外へ漏(も)れ出してしまうと無関係な人の命を危険にさらしてしまい兼ねません。漏えいを工場内で止めらせることができるか否かで、その後の事故処理に雲泥の差が出てくるでしょう。
2-4.地域の人や行政とのコミュニケーションも大事
環境対策において、工場の周辺地域や行政とのコミュニケーションも必要不可欠なものとなります。地域の人にとって有害物質等を扱っている工場が近くにあると不安な気持ちになるのは当たり前です。工場の騒音問題なども近隣住民の人たちにとってはストレスのもととなります。だからこそ、地域の人たちと触れ合い、信頼関係をしっかりと築くことも大切です。地域の人とコミュニケーションを取ることで、何を問題視しているのか・どのようなところに不安を抱いているのかも把握しやすくなるでしょう。そして、工場内部の事業内容や取り扱い物質などに関して、積極的に行政へ情報発信をすることも大切なポイントです。常にコミュニケーションを取っておけば、いざというときでも連携が撮りやすくなりますし、随時相談に乗ってもらうこともできます。
3.工場の環境対策と取り組み事例
それでは、実際に工場が取り組んでいる環境対策の事例をいくつか紹介します。
3-1.自動車工場の二酸化炭素排出量削減の取り組み
前述したように、自動車工場において、自動車を作るためには二酸化炭素の排出は避けられません。そのため、極力排出量を減らすための取り組みが推進されています。たとえば、ある自動車工場では、環境対策のために製造工程を短縮させて製造時間を短くしたり、使用するエネルギーを太陽光や風力発電にしたりするなどです。そうすることで、有害物質を発生させないようにし、二酸化炭素排出量を減らすためのリサイクル循環を徹底しています。自動車工場によっては、雇用者の通勤から製造段階まで、すべての段階において排出される二酸化炭素の量や割合を明確にしているところもあるほどです。
3-2.設備を整えている工場も
日本製紙クレシア株式会社では、工場の設備を整えることで二酸化炭素排出量の削減や、クリーンエネルギーの利用を実現しています。設備が古くメンテナンスされていない状態ほど、有害物質を大量に生み出してしまいがちです。エコ活動に取り組む工場が増えてきていることもあり、環境にやさしい設備がたくさん登場しています。たとえば、排水処理設備の場合、凝集沈殿槽+生物膜廃水処理設備+ろ過装置を活用することで、取り入れた用水とほとんど変わらない水質まで処理し放水するなどです。燃料を都市ガスに全面転換することで、クリーンエネルギーの利用も実現させています。
3-3.省エネ活動や再生可能エネルギーへの転換
有名なサントリーグループでは、環境への取り組みを推奨しています。環境に調和した生産活動を目標にし、さまざまな省エネ活動や再生可能エネルギーへの転換を実施中です。たとえば、稼働状況を一元的に記録・管理し、生産工程での省エネ活動に活用しています。豪雪地域に立地する工場では冬季の積雪を蓄える雪室(ゆきむろ)を利用したり、天然水南アルプス白州工場では太陽光パネルを設置したりするなど自然エネルギーを活用しているのです。また、ビールの製造工程では、使用するボイラーや釜を一新し使用エネルギー効率を20%も向上させています。
4.工場の環境対策に関してよくある質問
工場の環境対策に関する質問を5つピックアップしてみました。
Q.環境対策に取り組む必要性は?
A.公害防止のためであることはもちろん、自然環境と寄り添いながら生きていくエコ活動が消費者も関心を強めているからです。工場を運営している企業において、環境にやさしい製品を開発することがそのまま収益向上につながる可能性はあります。環境に配慮した製品やサービスのことをエコプロダクツといいますが、消費者も注目しているジャンルです。環境活動を行うことは企業や工場のイメージアップにつながるといえるでしょう。
Q.事業者向け公害防止ガイドラインとは?
A.環境管理体制の構築を目指し、事業者関係する団体・組織が一丸となって取り組む行動指針となるものです。平成19年度に経済産業省と環境省が取りまとめましたが、そのガイドラインを参考にしながら率先することが大切なポイントとなります。近年は、公害防止に対する重要性の認識が相対的に低下していると懸念されているのです。少しでも気を抜くと水俣(みなまた)病や四日市ぜんそくのようになってしまう危険があるので常に意識していかなければなりません。
Q.今後、環境対策で求められることは?
A.製品のための資源採取から使用後の最終廃棄・リサイクルまでの全体がおよぼす環境負荷を最小化するための活動=サプライチェーンへの責任が求められるといわれています。工場から出て行くものの適切な管理だけではなく、その後の責任も持たなければなりません。地球の資源は無限というわけではないため、うまく資源を循環させる取り組みが必要となります。
Q.環境事故で最も頻度が高いのは?
A.水質汚濁事故が最も頻度が高い環境事故といえるでしょう。中でも、特に問題視されているのが油の流出です。たとえば、油を運んでいた輸送船が沈没し、その油が海に流出した事故を耳にしたことがあるのではないでしょうか。油が流出すると魚を含めた生物が大量死するほか、範囲が広ければ除染作業や被害補償も大変なことになってしまいます。油の流出は非常に怖いことなので、きちんと対策を立てておかなければなりません。
Q.生産ラインにおける環境対策は?
A.製造過程で排出されるゴミの分別や廃棄の仕方を意識することが大切なポイントとなります。特に、ゴミ発生場所での分別容器の選択は重要事項の1つです。どのゴミをどの容器に入れるのか明確にし、排出量をチェックしましょう。また、各種分別回収容器を折りたたみにすることで、量の増減を省スペースで利用できるようになります。どうすればゴミの量を減らすことができるのか、常日ごろから考えることも大切です。
まとめ
工場の大きな課題となっている環境問題への対策は、長い目で見て考えていかなければなりません。一時的に何とかしようとするのではなく、環境を守りながら工場を運営していくにはどうすればいいのか、定期的に見直したり長期的な計画を立てたりすることが重要となります。また、地域の人や行政とのコミュニケーション・協力も大切なポイントです。環境汚染の影響・事故などを踏まえた上での、工場運営を心がけていきましょう。