液分離(層分離)の原因と防止対策|乳化・分散を安定させる撹拌機の選び方
「乳化粒径を微細化して安定させたい」「経時変化による液分離(層分離・沈殿・浮上)を防止したい」といった課題は、製品開発や製造現場において頻繁に発生します。これらの問題を解決し、品質の安定を実現するためには、撹拌プロセスの見直しと適切な機器選定が不可欠です。
この記事では、液分離を防ぐための乳化・分散機の選定手順から、現場で役立つプロセス設計、スケールアップのポイントまで、機械メーカーとしての知見を交えて解説していきます。読み進めることで、自社製品に合った撹拌方式や、製造工程における品質管理の勘所が見えてくるはずです。
この記事は、次のような方におすすめです。
- 製品の経時分離・沈殿トラブルを確実に防止したい研究・技術者の方
- ラボから実機へのスケールアップで品質を再現したい製造担当者
- 衛生・効率・長期的な品質安定を意識した設備導入を考える工場責任者
1.液分離防止の基本は「撹拌方式」にあり|特徴と最適なせん断力
液分離を防ぐための「正解」は一つではありません。プロペラ撹拌、ディスパー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなど、それぞれの特徴を理解し、製品粘度や目標とする粒子径に合わせて選定する必要があります。
予備混合から微細化まで―方式別の役割と選定基準
液分離防止(乳化安定)において、各撹拌機には得意分野があります。
- 低速撹拌機(アンカーミキサー等):槽全体の均一化、熱交換の促進に適しています。しかし、強力な分散力はないため、微細化には不向きです。
- 高速ディスパー:粉体の濡れや予備分散に向いています。
- ホモミキサー:高速回転による強力なせん断力を持ち、粒子を微細化して安定性を高めるのに最も適しています。
ターゲットとする粒径まで微細化できるかどうかが、長期安定性の分かれ目になります。製品特性によっては、これらを組み合わせた「複合撹拌」の検討が必要です。
知らずに選ぶと危険?「フロー(循環)」と「シアー(せん断)」のバランス
撹拌機を選定する際、回転数やせん断力だけに注目しがちですが、「フロー(循環)」と「シアー(せん断)」のバランスが重要です。 例えば、せん断力だけが強くても、タンク全体が循環していなければ「未処理部分」が残り、そこから分離が始まってしまうリスクがあります。逆に循環が強くても、粒子を砕く力が足りなければ乳化は安定しません。それぞれの装置が得意とする粘度範囲や処理時間を考慮し、タンク全体を均一に処理できる設計にすることが重要です。
なぜ複合撹拌が有効なのか―理想の仕上がりと設計ロジック
複合撹拌(アンカーミキサー+ホモミキサーなど)は、液分離防止に非常に有効な手段です。 アンカーミキサーで高粘度製品でもデッドスペースを作らずに全体を流動させ、その中で高速回転するホモミキサーが粒子を微細化・均一化します。それぞれの撹拌翼が役割を分担することで、効率よく理想的なエマルションやサスペンションを生成できます。
2.「数値で裏付け」理想の分散状態を実現する理論と計算
理論に基づいた設計を行うことで、液分離防止の確度を高めることができます。ここでは、ストークスの式などの基本原理から、現場で意識すべきポイントを解説します。
現場で役立つ!ストークスの式の理解と活用
液分離(沈降や浮上)のメカニズムを理解する上で、基本となるのが「ストークスの式」です。この式によると、分離速度を遅くするためには以下の3点が有効とされています。
- 粒子径を小さくする
- 分散媒の粘度を上げる
- 密度差を小さくする
特に機械的なアプローチで制御しやすいのが「1. 粒子径」です。ホモミキサー等で粒子をどこまで小さく均一にできるかが、製品寿命(分離までの期間)を延ばす鍵となります。
効率・品質・コストを考慮した機種選定
機種選定においては、スペックだけでなく運用コストも重要です。高スペックな機械であっても、洗浄や分解に時間がかかりすぎる構造では生産効率が落ちてしまいます。 CIP(定置洗浄)への対応や、分解洗浄の容易さ、バッチごとの再現性などを考慮し、トータルコストでメリットのある機器を選定することが、長期的な安定生産につながります。
3.再凝集を防ぐ!真空乳化とサニタリー設計の重要性
分離や変質を防ぐためには、気泡の混入防止やサニタリー性が重要な要素となります。ここでは、真空乳化のメリットや装置選びのポイントを整理します。
気泡は分離の大敵!真空乳化装置が選ばれる理由
撹拌中に空気を巻き込んでしまうと、製品の酸化原因になるだけでなく、気泡が核となって経時的な分離を促進してしまう可能性があります。 これを防ぐ有効な手段が「真空乳化」です。タンク内を減圧状態で撹拌することで、脱泡しながら乳化・分散を行うことができ、キメ細やかで光沢のある、安定した製品づくりが可能になります。化粧品や機能性食品など、高品質が求められる現場では特に推奨されます。
衛生基準をクリアするサニタリー設計
食品や化粧品、医薬品の製造において、サニタリー設計は異物混入防止だけでなく、品質安定のためにも重要です。 残留物が次回のバッチに混ざれば、それが汚染源(コンタミ)となり、エマルションの崩壊を招くリスクがあるからです。接液部の材質(SUS316Lなど)やバフ研磨の仕上げ、洗浄液が溜まらない構造など、細部まで配慮された機械を選ぶことが重要です。
4.「安定・均一」を保つ運転・保守・モニタリングのポイント
常に同じ品質を保ち続けるためには、日々の運転管理や適切な保守が欠かせません。安定生産のための管理ポイントを解説します。
電流値・温度モニタリングによる品質管理
液分離防止(品質安定)を徹底するためには、製造プロセスの「見える化」が有効です。 撹拌モーターの電流値(負荷)や製品温度の変化をリアルタイムで監視することで、乳化の進行具合や異常の兆候を数値で把握できます。感覚だけに頼らず、データに基づいて製造条件を管理することで、均一な品質を維持しやすくなります。
トラブルを未然に防ぐ!メカニカルシール等の保守
撹拌機の軸封部(メカニカルシールなど)の保守は非常に重要です。ここが劣化すると、異物混入や真空漏れの原因となり、結果として製品の分離や変質につながる恐れがあります。定期的な点検や消耗品の交換サイクルを適切に管理することで、突発的なトラブルを減らし、安定した生産を維持できます。
5.失敗しない導入のためのテスト機検証とベンダー選定
設備導入の成功は、事前のテスト検証と信頼できるパートナー選びにかかっています。導入前に確認すべきポイントを解説します。
信頼できるメーカーの見極め方
液分離防止に取り組む際、メーカーの選定は重要な要素です。 カタログスペックだけでなく、処方意図の理解度、テスト環境の充実度、スケールアップのノウハウ、導入後のサポート体制などを総合的に判断する必要があります。課題に対して技術的な提案をしてくれるメーカーを選ぶことが、プロジェクト成功への近道です。
テスト機貸出・来社テストでの実証
装置導入の前に、実際の原料を使ったテスト(来社テストや貸出機テスト)を行うことは、リスク回避のために非常に有効です。 机上の計算だけでなく、実際に乳化・分散させてみて、数日~数週間後に分離しないかを確認するプロセスを経ることで、導入後のトラブルを大幅に減らせます。事前の検証環境が整っているメーカーへ相談することをおすすめします。
6.まとめ
液分離(層分離)防止の最適解は、原料特性に合った撹拌方式の選定、理論に基づいたプロセス設計、そして実機を想定したテスト検証を積み重ねていくことにあります。
分離しない製品づくりへの3ステップ
- 自社製品の課題(沈殿、浮上、凝集など)を整理し、ターゲットとする粘度や粒度分布などの目標値を設定する。
- 現在の撹拌プロセスを見直し、せん断力不足や気泡混入、デッドスペースがないか点検する。
- 信頼できるミキサーメーカーに相談し、テスト機での検証を通じて最適な撹拌条件を見つけ出す。
三丸機械工業では、乳化・分散・混合に関する豊富な知見とテスト環境をご用意しています。液分離のトラブルでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。